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日豪税制クイック比較(第一版、2000/7/11)


 今年7月1日を境に、私の住むシドニーの物価は一変しました。例えば、近くの中華料理店の海鮮粥は5.7ドルから6.3ドルに上がり、コンピューター専門書の値段が69.95ドルから76.81ドルに上がり、逆にポテトチップの値段は2.69ドルから2.45ドルに下がり、輸入品のビデオデッキの値段は349ドルから329ドルに下がりました(1豪ドル=約63円)。というのも、オーストラリアは7月1日を以て税率10%のGST(消費税のようなもの)の導入、その見返りとしての大型所得税減税、物品税の大幅撤廃など、大胆な税制改革に踏み切ったからです。ちょうど12年前の日本の消費税導入当時を思い出させる光景ですが、私の知る限り、今回のオーストラリアの税制改革は日本のそれとは比較にならない位大規模かつ抜本的なものです。考えてもみて下さい、これまで日本で一夜にして税率10%という高額の消費税が施行され、代わりにサラリーマンの税金が30万円も戻ってきた、なんていう話があったでしょうか。オージー恐るべし!実際見ていて、「実に思い切ったことをする国だなあ」と、驚嘆せざるを得ません。

 この日を境に一気にリニューアルした(といっても、欧米や日本の税制に大きく近づいただけなのかもしれませんが)オーストラリアの税制とは果たしてどんなものなのか、国民の負担はどのくらい重いのか、主に平均的サラリーマンの視点に立って日本との比較の上で考えてみよう、というのが今回の企画の趣旨です。

 今回比較する対象は、@直接税(国税、地方税、社会保険料など、サラリーマンにとっては「天引き」される税金)、A間接税(消費税や物品税など、お金を使う際にかかる税金)、B財産関連税(固定資産税、相続税、キャピタルゲイン税など、財産の保有、使用に関わる税金)です。いずれも、サラリーマンにとっては身近な税金です。なお、企画の趣旨から、事業税、法人税などについての比較は割愛します。

日豪比較その1−直接税  

 日豪の平均的なサラリーマンは、給料からどの程度の割合を税金として徴収されてしまうのでしょうか?

 ここでは、「税金」を「給料から強制的、半強制的に天引きされるすべての税金・社会保険料等」と定義します。日本のサラリーマンの場合、「税金」とは国税、地方税、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)の合計を指します。一方、オーストラリアのサラリーマンの場合、「税金」とは国税、健康保険(メディケア)負担金、および企業年金(スーパーアニュエーション)拠出金の合計を指します。

(注)オーストラリアの企業年金は日本のような強制拠出方式ではなく、負担率を自由に設定できる方式を採っているので、強制的に天引きされるというわけではありませんが、制度自体の性格は日本の厚生年金にほぼ相当するので、「税金」に含めることとします。


比較ケース1:大卒独身サラリーマンの場合

前提

日本:大卒30歳独身、税込年収500万円(月収30万円、ボーナス140万円)、標準報酬月額=23万円
豪州:大卒30歳独身、税込年収4万ドル(週給770ドル、ボーナスなし)、企業年金拠出金=収入の5%

試算結果

日本:実効税率=20.43%(税額=1,021,430円、手取り=3,978,570円)
豪州:実効税率=27.08%(税額=10,830ドル、手取り=29,170ドル)

比較ケース2:共働き夫婦子供二人の場合

前提

日本:夫婦とも38歳、夫税込年収650万円(月収40万円、ボーナス170万円)、妻税込年収100万円(ボーナスなし)、夫の標準報酬月額=29万円
豪州:夫婦とも38歳、夫税込年収4万ドル(ボーナスなし)、妻税込年収2万5千ドル、企業年金拠出金=夫婦とも収入の5%

試算結果

日本:実効税率=15.09%(税額=1,131,590円、手取り=6,368,410円)
豪州:実効税率=22.55%(税額=14,658ドル、手取り=50,342ドル)

 上記にみるように、収入が平均レベルの場合、独身、夫婦(子持ち)にかかわらず日本の方が実効税率が低いようです。なぜか?その理由は主に下記によるものと考えられます。

@【控除の手厚さ】日本の方が概して控除額が大きい。例えば日本には給与所得控除があり、平均的な収入レベルのサラリーマンは年収の3割程度が控除されるが、オーストラリアにはこれに相当する制度はない。また、日豪とも配偶者・扶養家族控除の制度があるが、日本の方がより大きな額の控除が認められている。

A【税率の違い】日豪とも国税の税率は4段階になっているが、オーストラリアの場合かなり低い収入レベル(年収2万ドル)からかなり高い(30%)税率が適用される。一方、日本の場合その税率が適用されるのはかなり高い収入レベル(年収900万円)からである。

 それでは、日本は豪州に比べて誰にとっても税金が安いのかといえばそうではありません。下にみるように低所得層の場合は日本の方が実効税率は高くなってしまいます。


比較ケース3:高卒駆け出し工員の場合

前提

日本:20歳、税込年収240万円(月収20万円、ボーナスなし)、標準報酬月額=19万5000円
豪州:20歳、税込年収2万ドル、企業年金拠出金=1%

試算結果

日本:実効税率=21.76%(税額=522,245円、手取り=1,887,755円)
豪州:実効税率=12.83%(税額=2,565ドル、手取り=17,435ドル)

 豪州の制度が低所得層に手厚い理由は、主に下記によるものと考えられます。

@【所得税と社会保険料の一本化】日本では、所得税と社会保険料は別個の体系で徴収され、後者が低所得層にとって重い負担になっていますが、オーストラリアではそれらが一本化されています。

A【低所得層に対する恩典】オーストラリアでは、一定以下の所得の国民に対して、健康保険負担金を払わなくて良いなど様々な恩典が与えられています。日本では、これに相当する制度はありません。

B【企業年金の拠出額が自由】オーストラリアの企業年金制度は、拠出する額を個人の自由意思で決めることができます。例えば、所得が低い場合は拠出額を低くすることが可能です。一方日本の場合は公的に決められた割合を拠出しなければなりません。

 また大きなポイントとして、オーストラリアでは7月1日の税制改革によって所得税の税率が劇的に下がったことを特記しておく必要があるでしょう。上記試算の例で言えば、大卒独身サラリーマンの場合は30.63%から27.08%へ、共働き夫婦の場合は24.45%から22.55%へ、それぞれ実効税率は下がりました。すなわち、今年6月末以前のオーストラリアでは中産階級にとってより厳しい税制が施行されていたわけです。税率10%という大型消費税(GST)が導入された背景には、この国の中産階級の重税感と不満があったことは間違いないでしょう。

日豪比較その2−間接税 先頭に戻る

  日豪両国とも、すでに消費税が導入されています。税率はご存知の通り日本が5%、オーストラリアが10%です。現時点では消費税の負担感はオーストラリアの方が日本の倍程度あると考えて良いでしょう(もっとも、日本の消費税が近い将来10%程度まで上がることは間違いないでしょうが)。

 オーストラリアの消費税が日本と違う点は、課税免除品目が結構たくさんあることです。例えば生鮮食料品、医療サービス、地方税などは消費税の対象外です。とは言え、我々生活者は生鮮食料品だけで生きているわけではないし、スーパーに出回る商品を見ても消費税がかかっていない商品を探し出すのは結構困難です。

 間接税としては、消費税のほかに個別の商品にかかる物品税がありますが、これは日豪両国とも消費税の導入によってほぼ全廃に近い状態になりました。私たちの生活に身近なものとしてはタバコや酒、ガソリンなどがありますが、タバコに関しては日本の方が税率が安く、ガソリンに関してはオーストラリアの方が安いようです。

日豪比較その3−財産関連税 先頭に戻る

  日本でもオーストラリアでも、サラリーマンの多くは家を持ち、株を買ったりして財産をつくるわけですが、そうした財産に対する税制の考え方は日豪両国で大きな違いがあります。

 まず第一に、オーストラリアでは不動産投資に大変有利な税制となっています。日本ではローンで家を買った場合、自分が住むのか純粋に投資目的かどうかに関わらず、ローンの利子分を還付(つまり節税)できるわけですが、一方オーストラリアでそれができるのは純粋に投資目的のものだけです。つまりオーストラリアでは、ローンを組んで家を買うにしても、自分が住むマイホームの場合は節税できず、不動産収入目当てに買ったリゾートマンションなら節税できるのです。頭の良い人は、シドニーで働きながらケアンズやゴールドコーストなどに家を買い、節税しながら不動産収入を得て、財産をつくっていくわけです。

 第二に、オーストラリアでは財産を持つことに対する税金はほとんどかかりません。例えば日本では自分名義の不動産を持っていれば固定資産税、都市計画税などが結構かかりますが、オーストラリアではその類の税金は安く済みます(地方自治体が徴収するRateという税はありますが、微々たるものです)。他方、日豪両国とも不動産や株を売却して利益が出た場合には税金を徴収するしくみになっています(キャピタルゲイン税、不動産譲渡税など)。

 第三に、オーストラリアでは相続税、贈与税など、財産を継承することに対する税金はかかりません。したがって、この国では大地主が地所を子孫に継承し続けたり、資産家が不動産を子供に無税で生前贈与して、老齢年金など社会福祉を受けることだって可能です(この国では一定以上財産があると社会福祉を受けられない仕組みになっています)。

 これらが何を意味するのか。オーストラリアでは自分(または祖先)が額に汗して手にした財産に対しては、たとえ国とはいえ課税してはならぬとする「財産権不可侵」の考えがあるのではないでしょうか(恐らくこれはアングロサクソン文化に共通の傾向だと思います)。一方、日本の場合は個人の財産も結局は「お上」のものという意識が見え隠れします。相続税や固定資産税などはその良い例でしょう。

 他方、こうした「財産権不可侵」の考えやそれに基づく制度は、資産レベルでの貧富の格差を露骨に拡大してしまう側面も否定できないでしょう。私の見るところ、今のオーストラリアでは資産を持つ者と持たざる者との格差が、給料の高い者と低い者との格差よりもはるかに大きいような気がします。例えば、機転のきくサラリーマンは、高いサラリーを得て高い税金を納めるよりも、どんどん不動産投資して節税しようとするわけです。しかし、不動産価格は先祖代々からの資産家連中とか、日本、香港、英国、米国などから来た金持ち連中の手によってすでにつり上げられてしまって手が出ない、といった話はよく聞きます。

考察−中産階級に手厚い日本、資産家と低所得層に手厚い豪州 先頭に戻る

  これまで日豪両国の税制を概観してきましたが、一般的な傾向として、日本の制度は中産階級(特に平均的な所得を得ているサラリーマン)に手厚く、逆に資産家や低所得層には厳しいと言えるでしょう。逆にオーストラリアでは資産家と低所得層に手厚く、そのしわ寄せが中産階級に集中していると言えるでしょう。今回の税制大改革でかなり日本型に近づいたわけではありますが・・・。

 この違いは、恐らく両国のお国柄を反映しているのでしょう。サラリーマン主導で戦後奇跡の経済成長を遂げた日本では、サラリーマンにあまり苛酷な税金を課すことは政治的にできません。一方、開拓者や移民が財産をつくりながら国づくりをすすめ、長い間福祉国家を看板に掲げてきたオーストラリアでは、財産や低所得層に対する苛酷な課税は困難です。

 ただし、今後世界経済の統合が進むことによって、各国の税制もだんだん似てくるでしょう。例えば、日本は財産に対する課税を徐々に緩めることによって、オーストラリアは中所得層に対する苛酷な課税を緩めることによって、「世界標準」に近づいているわけです。そして、各国とも高齢化が進むとともに、低所得層や高齢者への手厚い保護は減っていくものと思われます。

 ただ、今の時点ではこう言えそうです。「まじめにサラリーマンをやるのなら日本」、「親の資産でマネーゲームをするのならオーストラリア」。結局、日本でまじめにサラリーマンと財テクでこつこつと小金を貯め、タイミングを見計らって一気にオーストラリアで勝負、というのがお金の面では一番賢いのかもしれません。まあ、人はパンのみに生きているわけではないんですけどね・・・


 この文章は、「日豪福祉国家クイック比較」と併せて読まれることをおすすめします。

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